2016年1月30日土曜日

【レポート】オーディエンス筋トレテーブル#08「技術のイメージ/イメージの技術」 




2016年1月22日(金)、愛知県美術館の副田一穂さんをお招きして「技術のイメージ/イメージの技術」と題したレクチャーをしていただきました。


今回副田さんは、科学の分野である、植物学で用いられた植物標本や天体学で用いられた望遠鏡といったものなどが、芸術家を含めた人々のイメージの受容に、どのように影響を与えたかについて論じられました。


副田さんが昨年2015年に企画された、愛知県美術館での『芸術植物園』や、愛知県美術館の紀要で発表された『江戸時代の望遠鏡と拡張された視覚の絵画化』での考察を踏まえて、科学史と美術史との交錯についてをお話いただきました。

今回の企画担当としての意図は、「美術史」をテーマとすることでした。
ロプロプという集まりは「鑑賞者」がキーワードです。日常生活で、雑誌やテレビなどの美術特集を見る度に、美術史的な観点が多くを占めているように思います。そこから、直観的に「美術史は、鑑賞者にとって重要なトピックであると、ひとまず誰もが直観的に捉えるものだろう」と推察しました。
その上で「美術史の現在」を垣間見たいということで、専門が美術史・シュルレアリスムである副田さんに、レクチャーしていただけないかとお願いしました。
今回のレクチャーを聴講された方々が、美術史をこれまでどのように捉えていて、そしてどのように捉え直すこととなったでしょうか。

以下、レクチャーのレポートです。

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「技術のイメージ/イメージの技術」 
 
2016年1月22日(金)19:00~21:00
講師:副田一穂さん(愛知県美術館学芸員)
会場:長者町トランジットビル2F
参加者:計34名

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■はじめに―――――――

科学の歴史において、研究や学習の用途で「挿絵」「図表」「グラフ」など、様々なイメージが活用されてきた。
それらは美術作品として扱われていたものではないので、美的な価値が念頭に置かれていない。
しかしそこに描かれたイメージは、何らかのかたちで人々に受容され、影響を与えたのではないか。
また科学者は芸術家と協働することによって、科学で活用するために必要なイメージを発明してもいたのである。

「地図」「写真」「X線」「コンピュータグラフィクス」など、科学における技術の発明やその時代の社会的な要請は、芸術家を含めた人々のイメージにも影響を及ぼしてきた。例えば「印象派」は、チューブ入り絵の具が発明され、屋外で絵が描けるようになったことで誕生したとも言える。


■美術史学の今昔―――――――

・伝統的な美術史学
形態と図像の分析から作品の身元鑑定と影響関係の確認作業を行う。探偵的な作業であり、考古学的な役割。

・新しい美術史学
受容者と仲介者を基本として、幅広く視覚文化全体を捉えようとする。「ジェンダー」などの社会的な観点や、「ポピュラーカルチャー」「テレビ」など、社会に溢れるイメージを考慮して解釈するなど。

・イメージ人類学
人類学的なアプローチを用いてイメージを捉えようとする。偶像を例にとれば、その時代その場所で、その偶像がどのように観られていたかを考慮して解釈するなど。



■科学的な技術の発明や普及が、人々のイメージの受容へと影響を及ぼしたいくつかの事例―――――――

①江戸時代の望遠鏡
望遠鏡が普及したことによって、それまでに人間が持っていたイメージが拡張された。
例えば江戸時代の浮世絵では、望遠鏡を覗いた中に見えるイメージが描かれるようになったり、また望遠鏡を覗いて見えるイメージと、それを覗く人々の両方が一枚の絵の中に、いくつかの表現手法を用いて収められて描かれたりするなど、多様な表現が発明された。
(詳しくは、愛知県美術館研究紀要『江戸時代の望遠鏡と拡張された視覚の絵画化』http://www-art.aac.pref.aichi.jp/research/pdf/2013Bulletin_Soeda.pdfを参照)


②X線の透過フィルム(レントゲン写真)
レントゲン写真の登場により、現代の画像処理ソフトでの特殊効果(オーバーレイなど)のような、色が透過したり、重なって混色するような表現が生まれた。
(例.Man Ray〈Concrete Mixer〉、 Flantisek Kupka〈The Dream〉など)


③植物学における挿絵、絵画、拓本
「リンネの植物分類法」などに基づいて、植物の分類を理解するために図鑑などにどのような標本を掲載するべきか、最適なイメージが模索された。代表的なものとして「挿絵、絵画」「拓本」など。

a.挿絵、絵画
・「模式図」。植物が共通して持つ器官がすべて描き込まれた、それ自体は実在しない〈モデル〉としての植物図。種から個体を分類する。植物の構造を捉えるためとしての利便性が高い。
(例.METHODUS plantarum SEXUALIS〈Caroli Linnaei〉、現代の学参教材用図版 など)
・リアルさを強調したもの。葉に滴る水滴が描かれたものや、植物の影までもが描きこまれたものなど。
(例.ヤブツバキ〈ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ〉、 サンシキスミレほか〈セバスチャン・シューデル〉など)
・「タイプ標本」。実在する任意の個体を選び標本として、それを基軸に分類を試みる手法。個体から種を分類する。「模式図」とは反対のアプローチ。「タイプ標本」は、以降の植物学における標本の、標準的な形式となった。また「タイプ標本」は、根までもを描きこむことが慣例となっていたので、翻って根までが書き込まれたイメージからは、観る人が標本的な雰囲気を受け取るようになった。
(例.ねこじゃらし〈宮脇綾子〉、 温かい家〈今村文〉など)

b.拓本
植物に紙や布を直接押し付けて写し取る技法。明治期の日本の植物学者、伊藤圭介や牧野富太郎らが活用した。様々にデザインの技法が用いられて編集された。レイアウト、トリミング、コラージュ、イラストレーション、タイポグラフィなど。
(例.安喜多富貴〈伊藤圭介〉、 バイカオウレン〈牧野富太郎〉など)


④その他、さまざまな植物を描いた絵画などの紹介

・写真黎明期…写真の技法を植物標本へと活用するために試行錯誤された。
・秋田蘭画…西洋の技法が日本に伝来して、植物画に積極的に導入された。
・その他、サボテン、芭蕉、椰子、鉢植、ドローイングなど。

 
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(文責:田中瑞穂)

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